ヴィヨンの妻を読んで

こんにちは、やなべです。

 

毎日更新をしていると、常にどんな記事にしようかと考えて本を読んだりしているのですが、数日前から読んでいる川端康成舞姫が、読んでいても何を言っているのかよく分からないという状態でした。あらすじを書くには難しすぎるということで、いったん読むのを止めて、もう少し読みやすいものを題材に記事を書くことにしました。短編で良さそうなものがないか探していたところ、太宰治の作品を見つけたので、それを今回の記事の題材にしようと思います。

 

 

この小説の主人公は、詩人である大谷の妻です。のちに、さっちゃんと呼ばれる女性なので、あらすじでは初めからそう呼ぶことにします。大谷は、日本一の詩人と言われている、四国のとある男爵の次男ですが、親には勘当されて、さっちゃんと赤ん坊の息子のいる家は数日帰ってこないばかりか、外で何人もの女性をつくっているという体たらくです。大谷はある日、行きつけの中野の居酒屋から金を盗んで帰宅します。外からは居酒屋を経営する夫婦の声がして、それを聞いたさっちゃんが外へ出ると、夫婦は窃盗を警察に通報すると言います。

 

居酒屋の主人に話によると、大谷はある日、秋ちゃんという年増の女性に連れられてやってきました。秋ちゃんは、知り合いの筋の良い客を連れてくるので、大谷もその部類かと思い、焼酎を飲ませます。大谷はおとなしくのんで、その日は秋ちゃんの支払いで帰っていきました。大谷は度々お店に来るようになり、ある日、百円紙幣を店の主人に掴ませて、お酒を飲ませてくれと頼むのでした。焼酎を十杯ほど飲み、お釣りは次のときまでに預かっておいてくれと言い、店を出ていきました。それからというもの、大谷は一銭も払わず、お店にあるお酒をほとんど飲み干してしまったのでした。

 

それを聞いたさっちゃんは、思わず吹き出してしまいます。そして今晩、大谷はお店にあったお金をいきなり掴んでポケットに入れると、外に出ていってしまい、居酒屋の夫婦はとうとう家までついてきたのでした。さっちゃんは、またもや笑ってしまうのですが、笑いごとではないので、そのお金は自分がなんとかするので、警察に言うのは一日待ってもらえないかとお願いします。翌日、さっちゃんは、なんの思慮もなく私は中野の居酒屋を訪れて、思いがけなかった嘘をすらすらと言います。明日までにはお金を返す用意ができているので、それまでは自分が居酒屋で働くというものでした。

 

そして、奇跡が起こります。夫が女性を連れて店にやってきたのです。そして、店の主人と連れの二人は話をするために、店を出ていきます。店の主人が帰ってくると、お金は返してもらったといいます。ただ、今までの酒代のつけがまだ残っていると言うので、居酒屋で働いてそれを返すことにしました。それからの日々は、さっちゃんにとって楽しいものになりました。家には何日も帰らない大谷でしたが、居酒屋には二日に一度くらいは来るようになり、勘定は妻に払わせて、家に一緒に帰ることもありました。

 

居酒屋で働いているうちに、私は居酒屋の客が皆犯罪者であることに気が付きました。そう考えると、道を歩いている人たちが何か必ず後ろ暗い罪を隠しているように思えました。しかし、正月の末にさっちゃんは、お客の一人からけがされることになるのでした。家についてきた客を泊まらせたところ、その男に手を入れられたのです。その後も、上辺はいつもと同様に居酒屋で働きました。ある日大谷は新聞を読みながら、あの盗んだ金はさっちゃんと息子の正月のために使うつもりで、自分は人非人でないから、あんなこともしでかしたのだと言います。それに対してさっちゃんは、人非人でもいいじゃないの、生きていればと答えるのでした。

 

----

 

好き勝手に振る舞う、傍若無人の大谷が盗みを働いたという話を聞いても笑ってしまうさっちゃんの純粋さに心持ちが救われる前半部分に対して、後半では居酒屋で働くうちに、皆後暗い罪を背負っているということに気づき、さらには自分が犯されるという事件を秘密にしながら何事もないように働く自分も、他人に言えないようなことを背負っていくという変化が、印象に残る作品でした。もともと、純粋で落ち着いた強さを持った女性が、世間に飲まれていくうちに、最終的には人非人でも生きていればいいと答えるようになることに、ちょっとした怖さも感じました。