白痴を読んで

こんにちは、やなべです。

 

以前に、罪と罰を読んでからというもの、ドストエフスキーの長編を読み漁っています。白痴は、ドストエフスキーの五大長編のひとつであり、彼の代表作でもあります。他の長編と同じく、とにかくサイドストーリーが長く、それが作品の多面性を生んでいるとも言えますが、初読者からすると、本筋を捉えるのが精いっぱいというところでした。

 

 

主人公のムイシュキン伯爵は、重度のてんかん患者であり、スイスのサナトリウムで生活をしていたところ、症状が軽快して、祖国のロシアに戻ることになりました。彼は遠い親戚にあたるエパンチン将軍一家を頼りにして、列車に乗り込みます。そしてその道中で知り合いとなったロゴージンから、資産家の情婦であったナスターシャの写真を見せられます。

 

エパンチン将軍一家に受け入れられた伯爵は、一家の三女であるアグラーヤと出会います。そこから、伯爵はナスターシャとアグラーヤの両方に恋心を寄せることになります。初めは、伯爵はナスターシャに結婚を申し込み、それが受け入れられるのですが、その後、ナスターシャはロゴージンのもとに走ります。伯爵とロゴージンは恋敵となり、一時はロゴージンに殺されかけるという事件も発生します。

 

さて、そのうちアグラーヤと伯爵が恋仲になると、ナスターシャはアグラーヤに手紙を送り伯爵との結婚を勧めます。アグラーヤはこの手紙を見て、ナスターシャがまだ伯爵に心残りがあることを察し、伯爵とともにナスターシャのもとを訪れますが、皮肉にもこのことが伯爵とナスターシャを再び引き合わせ、結婚することになってしまうのです。

 

しかし、結婚式の当日になり、ナスターシャは伯爵を裏切り、ロゴージンと駆け落ちをしてしまいます。その後、ロゴージンはナスターシャを殺し、伯爵にそれを打ち明けたところで、逮捕されてシベリアに流刑になります。伯爵も、その後てんかんの症状が悪化し前後不覚に陥り、アグラーヤは望まない男性と結婚する、という話です。

 

あまり救いがない話ですが、とにかく伯爵がてんかんの持病のため白痴と呼ばれながらも、純真な性格のため周囲に好かれていくという一点においては、読者の心を和らげてくれるのだと思います。アグラーヤは、最初は伯爵が白痴であることをバカにして、心無い言葉を投げかけるのですが、それに対して伯爵は「自分がそう思われることは、致し方ないことだ」と笑って受け流すのです。障害を負いながらも、純真な気持ちで周囲に接し続ける伯爵の姿には、心を打たれます。

 

そして、それとは対照的に、ロゴージンは悪として描かれていますが、最終的にナスターシャへの情熱が殺害の動機になることは、想像できない展開でした。一度は自分のもとに走ったのにも関わらず、アグラーヤに伯爵が恋心を抱いたことで、いまいちど自分のもとに引き寄せることで捨てられてしまったという、ロゴージンの気持ちが不信となり、殺害に至ったということでしょうか。

 

個人的には、伯爵とアグラーヤが結ばれてハッピーエンドになると思いきや、最後の展開に圧倒されているうちに読了という感じでした。白痴と呼ばれた伯爵との結婚をよしとしないアグラーヤの母親の存在や、自分と一緒になったら不幸になると思いながらも、最終的には自分のものにしたいという気持ちを抑えられなかったナスターシャといった、周囲の思惑に翻弄され、幸せをつかみきれなかった二人の儚い恋というのも、この小説の後味になっているのです。