女であることを読んで

こんにちは、やなべです。

 

今回も、川端康成を選びました。とりあえず、自分の好みの作家を見つけたら、その人の小説をひたすらに読んでいくというのが、私の読書方法のようです。川端康成の小説のあらすじを書いていて思うのは、場面展開が多くてそれらが並行して話が進んでいくので、どの部分を切り取れば話の筋が分かるのか、判別しにくいということです。あらすじを書くために、小説をはじめから読んで、話の筋になりそうなところを抜粋するのですが、川端康成の作品の場合は、それが膨大な量になります。

 

 

三浦さかえは、母の音子と暮らしています。さかえの父は、三浦商会という雑貨屋を営んでいたのですが、現在はそれを廃業して、不倫相手との間に子どもをもうけて、家にはたまにしか帰ってきませんでした。さかえには姉のいと子がいますが、あまり性格が合いませんでした。ある日、さかえは家出をします。母から銀行の用事を頼まれたきり家に帰らず大阪駅に向かい、そこから東京ゆきの急行に飛び乗ったのです。東京には訪ねるあてがあり、それは音子の友人の佐山夫人である市子でした。

 

市子のもとに速達の手紙が届きます。音子からで、さかえがそちらに向かったので、よろしくと書かれていました。しかし、肝心のさかえは現れません。佐山家には、すでにもうひとり居候の娘がいました。名前は妙子といい、妙子の父は殺人を犯して東京拘置所に収監されているのですが、そのときの裁判で弁護をしたのが佐山弁護士で、縁があり妙子を引き取ることにしたのでした。佐山夫妻の間には子どもがおらず、十年前に市子が流産してから音沙汰がありません。

 

佐山家には赤いカナリアがいて、妙子は小鳥に親しんでいました。家から出たがらない妙子のために、市子は小鳥の餌を百貨店に買いに行くことを、妙子の役割にしていたのです。百貨店の小鳥売場では、妙子の友人の千代子が働いています。ある日、千代子は妙子に有田という大学生を紹介します。千代子が売場に戻ってしまい、二人になった妙子と有田は、百貨店で開催されていた写真展に向かいます。その会場で、妙子はある写真に衝撃を受けて、倒れてしまい有田に介抱されます。

 

佐山夫妻は、佐山の友人であり大阪から来た商業美術家の松村と会うことになっていました。会食が済むと、松村は宿泊先のホテルに息子の光一が来ていると言って、誘いました。そこで、市子はさかえを見つけました。東京駅に着いたさかえは、偶然松村と同じホテルに泊まっていたのでした。市子はさかえを家に連れて帰りました。市子はさかえを可愛がりました。そして、さかえも市子を慕います。さかえには、自信家のようでありながら、自分に失望してるところもあり、それが魅力的でした。

 

光一は、市子から映画に招待されました。帝国劇場に向かうと、そこには佐山夫妻がさかえを連れていました。光一はさかえの幼馴染でした。このときさかえは佐山に、自分は佐山の事務所で働かせてもらうと言いだします。佐山がさかえに事務所を見に行くかいと誘ったとき、市子は頬がこわばりました。さかえが一日中、事務所で佐山のそばにいると考えると、市子は邪気を感じて落ち着かないのでした。佐山と別れて、映画の帰りにフランス料理屋で食事をしていたとき、市子は清野という昔の恋人と再会します。清野は近況を話そうとするのですが、市子は冷たくあしらうのでした。

 

さかえの母親の音子が、佐山家を訪れます。翌日、都内の観光バスツアーに行こうということになり、妙子は留守番になりました。その日、妙子は有田と会う約束をしていたのです。有田は妙子の部屋に行きたいと言います。妙子はだまって家に帰り、有田はそれについてきました。妙子は有田に手首を握られ、引き寄せられていました。帰宅した市子が妙子の部屋に行くと、そこには妙子はいなく、置手紙がありました。妙子は家を出て行ってしまったのです。

 

ある日、さかえは夜遅くまで外で酒を飲んで帰ってきました。市子が介抱すると、さかえは市子に見捨てられてしんどいと言います。妙子が家を出ていったことにさかえが関係していると思った市子は、この頃はさかえにつらくあたっていたのでした。それにさかえは、音子が東京に出ててきて、一緒に住むことになったら、佐山の事務所も辞めなければいけないだろうと言います。市子は、さかえが続けたければ続ければいいと言ったものの、罠にはまったような気がしました。そのとき、さかえは市子に接吻をしたのでした。男はみな嫌いとさかえは言うのです。

 

音子が佐山家を訪れます。阿佐ヶ谷に新居を買ったので、さかえを連れていくと言うのです。さかえは三日ほど留守にすると言い残します。音子の引っ越しの手伝いで、さかえはしばらく佐山の事務所には行けずにいました。そして久しぶりに事務所に行き、佐山に挨拶をすると、佐山は生返事をして、また書類に目を落としてしまいました。夕方に、佐山は市子が心配しているから家に帰ろうと言います。帰り道、さかえは自分が二人の中で好ましくない存在にさせられているなら、もう事務所へはいかないと佐山を責めます。佐山は、さかえに平手打ちをしました。さかえは、佐山にぶたれたのが嬉しいと言います。

 

有田はしばらく田舎に帰っていたのですが、田舎ではあまり良いことはありませんでした。田舎の家族は、有田が大学卒業後に養ってもらおうとしていて、妙子のことも好ましく思っていませんでした。有田が帰京した翌日、二人は新しい貸間に移ります。貸間の家主は未亡人で洋裁店をしていました。妙子は有田の迷惑にならないように、その洋裁店で働きたいと志願したのでした。子どもの話になったとき、有田は妙子の遺伝は悪いと言います。妙子は父親のことを言っているのだと思い、ショックを受けます。

 

市子は、佐山とさかえと三人で映画をみる約束をさせられます。有楽町の映画館から出たときに、市子は偶然清野を見つけて話しているうちに、佐山とさかえとはぐれてしまいます。二人が見つからないので、市子は一人で帰宅すると、そこで妙子が待っていました。有田は、また田舎に帰って家にはいませんでした。妙子は、有田とはなればなれになっても、仕事をしながら待ち続ける決心をしたと言います。

 

そこに、電話のベルが鳴ります。築地病院からでした。さかえが電話口にいて、佐山が自動車と接触事故を起こしたと言います。市子はすぐに築地病院に向かいます。医者は佐山の容態は心配ないと言います。病室を出ると市子は吐気と目眩がしました。医者は仮に妊娠だとしてもまだわからないと、あっさり言います。前回の流産から十年経って、市子は妊娠したのでした。数日後、佐山は退院を許されて帰宅しました。妊娠のせいか、市子は人嫌いになっていて、家にもあまり人を呼びたがらなくなりました。

 

佐山が退院してから、さかえは市子の前に姿を現さなくなりました。久しぶりに音子が訪ねてきました。さかえの様子を聞くと、失恋でもしたみたいに荒れていて、酒や煙草の日々なのだそうです。さかえは、清野と夜遅くまで遊び歩いているようなのです。一方の妙子は、有田が田舎から帰ってからすぐに学生寮に引っ越してしまい、一人になってしまいました。有田は自分が来たいときだけ、妙子のもとに来るようになりました。妙子は有田にもう来ないでと言います。

 

妙子が佐山家を訪れて、自分が医療少年院で働けそうだということを伝えに来ます。以前から、妙子が興味を持っていた仕事なのでした。そこに、さかえがやってきます。市子にお別れを言いに来たのだと言います。そして、さかえは市子が清野と別れて正解だと言い残すのでした。一週間ほどして、さかえから電話がかかってきます。京都の父のもとに向かうというのです。市子は、父に会ったらまた佐山家に帰ってきなさいと言うのでした。

 

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あらすじを書いてみましたが、あらためて話の筋を抜き出すのと、登場人物の細かい心の動きを文章の端々から感じるのとでは、隔たりがあるのだと思いました。さかえの気持ちは、最終的には佐川にあるのですが、それを危機と感じる市子の心情や、だからこそ妊娠したときの嬉しさというか、さかえに対する優越感のようなものがリアルに迫ってきました。また、これに対して絶望を感じて、市子の元恋人である清野に近づくさかえというのにも、なんだか頷けてしまうところがあります。こうしたしっとにかられた闘いのような関係が、女性特有なのかは分かりませんが、人間の持つ欲望のようなものを観察し、リアルに描き切る作者には脱帽します。